GIGAスクール構想 致命的な問題 危ないこどもの命と安全

Society 5.0 社会を生きる子どもたちが、最先端のICT教育を受けることによって、予測不可能な未来社会を自立的に生き、社会の形成に参画する資質能力を育むと謳われたGIGAスクール構想

令和3年度9月24日萩生田文部科学大臣(当時)の記者会見によれば、通信環境の整備には多少ばらつきがあるものの、概ね一人一台端末が配備されたと発言されています。

新学習指導要領も、2021年度で小中完全実施、2022年度には高校も年次進行で実施されるなど、教育という世界は非常に変化が求められていて、大きな過渡期を迎えています。世界の中で日本のICT化が遅れていることも、以前から懸念されていたことでした。『GIGAスクール構想の実現とは~学校情報化の目的と概略』→https://www.youtube.com/watch?v=CtHWnraIajA

しかし、そんな時代における重要な政策であるGIGAスクール構想には、大きな落とし穴がいくつもあり、現代を生きる子どもたちに不利益と混乱を生じさせてしまう可能性があります。

後にも述べますが、その最たるものが、東京都町田市のICT推進校で起きた、小6女子のいじめ問題です。ネットワークを利活用する教育の中で子どもを育もうとするこのGIGAスクール構想で、起きてはいけないことがいけないことが起きているのです。にも関わらず、その欠点を補おうとする動きや変化は見られない状況です。子どもたちをネットの世界に引き込むことにつながるこの構想によって、取り返しのつかない事態に巻き込まれないか不安に感じた方も多いのではないでしょうか。

子どもたちが一生の傷を残すかもしれないという不安を差し置いて、未来社会を生き抜くという綺麗な文言ばかり並べ、導入を早めて実施しているこのGIGAスクール構想は、果たしてこれからの時代を生きる子どもたちにとって、本当に必要かつ安全なものとなっているのでしょうか。

筆者は決してそう思いません。

筆者が述べる見解を基に、読者の皆様にとっても子どもたちの資質能力の育成に本当に必要なことについて考えていく機会にしていただきたいと思います。

 

文科省が出したGIGAスクール構想はまるでリスクマネジメントがない

令和3年3月12日、「GIGAスクール構想の下で整備された1人1台端末の積極的な利活用等について」という通知が文科省より各自治体の教育委員会に出されました。

GIGAスクール構想の実現について→https://www.mext.go.jp/a_menu/other/index_00001.htm

通知の中では、GIGAスクール構想の目的に基づいて、利活用の場面や方法、教職員の研修や支援体制について記されていて、併せてチェックリストが並べられています。

多くの教育サイトでも述べられているように、保護者も含め、教職員の情報教育に関するリテラシーが総じて低いため、教える立場の大人がまず学ぶ必要があるという課題があります。通知の中では、そうした課題を解決する対策として、ICT活用に関する研修や支援体制の充実に関するチェック項目が多くあります。その項目の全ての満たすためにまた教員の負担がどれだけ増すことやら…。

しかしその反面、「ある課題」に対しては、リスクマネジメントを教育現場や各家庭に丸投げになっているものがあります。ここが本記事で訴える最大の問題。分かるでしょうか?

それは、「SNSの利活用において、子どもを保護する観点が重要視されていないこと。」です。そして、現在のGIGAスクール構想における利活用方法では、子どもを守れないと考えます。

ICT利活用のメリットに最大限の振り幅をもたせて、その情報活用能力の育成だけを見て子どもたちに使わせようとしている方向性に、異論を唱えたいと思います。

矛盾と困難しか見えてこないGIGAスクール構想

衝撃の一文

まず、上記の通知のある文に注目してみましょう。

「児童生徒の発達段階や情報活用リテラシーの習熟度合に応じた対応・準備が必要となる場合や、保護者等の十分な理解を得る必要がある場合などには、情報モラル教育を含めた正しい利用方法等の指導を行って安心・安全に利用できる情報活用能力を身に付けたり、保護者をはじめとする関係者の理解を得たりする間、学校設置者や学校の判断の下、例えば、能力や年齢等に応じて、一時的に利用を制限するような場合も想定され得る。しかしながら、GIGA スクール構想の趣旨を踏まえれば、こうした制限は安易に行うものではなく、真に必要な場合にのみ行うべきであって、むしろ、多くの課題については、1人1台端末を積極的に利活用する中で解決を図ることこそが重要と考えられる。以上も踏まえ、地方自治体など学校設置者等におかれては、適切な理由を説明しないままに端末利用を制限するのではなく、課題等がある場合には、学校現場をはじめとする関係者との緊密な調整・協議を行ったり、保護者の理解等を得る努力を丁寧に行ったりした上で、児童生徒の発達段階や実情を踏まえながら、学校における ICT 環境を最大限積極的に活用していくよう留意すること。」『令和3年3月12日G「GIGAスクール構想の下で整備された1人1台端末の積極的な利活用等について(通知) 3.ICTの積極的な利活用についてより引用』

まず疑問。本気でこれが全ての子どもに求められるものだと思っているのか?筆者は信じられません。

その中の一文に注目すると、色々なリスクが容易に浮かぶと思います。「制限は安易に行うべきではない」「多くの課題については積極的に利活用する中で解決を図る」

もう一度書きます。本気か?正気じゃない。理由を書きます。

現在のSNSに関する問題への対応と矛盾している

これまで多くの自治体や教育現場では、SNSに関する問題は非常に敏感だったと思います。なぜなら、こうした問題は常に「学校外で起きることが多くて可視化が難しく、対応しにくい」からです。

筆者が現場にいた頃、SNSに関する問題で一番耳に入ってきたものが「LINEいじめ」です。続いて「親に無断でゲーム課金」、少ないですがすぐ重大事案に上がってしまうのが「出会い系での性的被害、誘拐などに遭いそうになる」といった所でした。しかし、こうした問題は起きる前の対応がほぼ不可能で、起きた場合の対応に追われることがほとんどです。情報通信機器を持たせているのは保護者であるため、使用責任は保護者側であるにも関わらず、学校環境に多大な影響をもたらす可能性があるので指導せざるをえないのです。

さらに、子どもを指導しても学校外で使用する時には学校は見守れない。保護者が子どもを指導する力が無くても手放すよう強制できない。トラブルが収まらなければ結局学校の指導不足を指摘される。学校側ができる対応をしても、非常に解決しにくい問題に発展するわけです。

これを踏まえて考えると、GIGAスクール構想の中で、

「学校管理下で、LINEのような意思の送受信、共有ができる情報通信機器を使用した上で、全員から学校内外でのいじめやトラブルが防ぐ」ことができるか。

本当に学校でできると思いますか?研修の充実と謳っていますが、よほどICT技術について研修の時間を充分にとらなければ、未然に防いだり、いち早く発覚するようにすることはできません。若手や中堅教員ならまだしも、ICT活用に長けていないベテラン教員も少なくないはずです。それを、今教職の現場に立つ人間全てに負わせるような状態になってきています。ましてや、学校現場にいるものなら誰もが感じていると思いますが、今まで教員が子どもたちのSNSに関する問題であれだけ苦い思いをしているのにも関わらず、それをGIGAスクール構想によって「積極的に利活用する中で解決を図る」ことを推奨されている意味が分かりません。順序が逆。

学校外の使用についても一緒です。保護者にも目的に応じた使用以外認めない同意書を書かされ、見守りの協力を義務のような形で強制されています。ろくな制限もかけられていない状態で本当に見守れますか?大人の世界に住む皆さんや公人と見られる方たちが、あれだけSNSで苦しめられているのにも関わらず、ご自分のお子さんが学校で安全にしようできるよう完璧に指導されると思いますか?

文部科学省は、子どもたちに使用上のモラルを育んだ上で利活用させる前提で様々な文言を並べていますが、できるならLINEいじめがもっとすぐに減ってきているはずです。情報モラル教育という言葉を傘にして、これからそのような問題が起きないようにと、いかにも学校現場や各家庭に丸投げするような暴論を唱えているようにしか思えません。

SNS上でのトラブルが耐えない中、その具体的な改善は非常に困難であるにも関わらず、さらにそのリスクが増長するとしか思えないGIGAスクール。それに対するリスクマネジメントが「モラル教育の充実」としかなっていない、何ら今までと変わらない通知で何かが変わると思えるでしょうか?

上記の通り、いかに情報モラル教育を進めたとしても、可能性として挙がるいじめやトラブルから守る保障はないわけです。

「こうしたトラブルからは、これこれの設定によって、安全にクラウドに保存されたり、見られるページを制限したりされるようにしています」という説明や、具体的な対策を自治体に求めるよう文科省がしっかりと声を大にしていればまた別ですが、そうした方向性ではないと思わざるをえないような通知になっていることが分かるはずです。

これから直面するでろう困難

筆者が危惧している最悪のケースがまさに冒頭で述べた通り、町田市のいじめ問題です。

これについてはプレジデントオンラインで掲載されていた『【告発スクープ】小6女子をいじめ自殺に追い込んだ「一人一台端末」の恐怖』で詳しく取材されています。→https://president.jp/articles/-/49923

この事例を踏まえて、上記のことがリスクの過大な捉え方と言えるでしょうか。子どもの利活用の仕方を細かく想定し、そのデメリットも充分に理解し対応策をしっかりともたないと、子どもの命を脅かす事態になるわけです。

GIGAスクール構想の目的にあるように、世界の中で未来社会を生きる日本人として養うべき能力を培おうとしていることも分かるし、そのために必要なことを述べていることも分かる。授業の中で利活用し、情報活用能力を育むことも必要だと思う。シンギュラリティを迎える2045年問題を真剣に考えることも大事だと思う。本気で取り組む教員、本気で取り組む子どもにとっては、非常に有意義な能力育成の指針になっていると思います。しかし!

「何を」するかを示すことは簡単ですが、「どう」するかを現場に丸投げの状態では、そのリスクには日の目を当てられず、いじめも増長される可能性があります。それは自治体や現場で「しっかり考えてもらって」と決まり文句のように聞こえてきそうですが、厳しいと思います。極端に言えば「できないこと」を「方法を考えて解決できること」と変換することが当たり前のように書かれているのがGIGAスクール構想です。

GIGAスクールを成功させるためには

教員にろくな時間も与えずにICT技術の研修を膨大に押し付けたり、特に小学生のタブレット使用に関して、ろくな制限もかけずに「自由」と「放任」を履き違えるような使い方をさせたり、学校で配られたタブレットを学校外でも使用することを保護者に見守りをお願いしたり、現実的にすぐには実現困難なことが平気で求められています。

児童生徒のSNSに関する解決しなければいけない問題に効果的な対策がなされていない部分も棚上げの状態で、GIGAスクールの良さだけを発信している現在の状態は、トラブルが絶えないことが容易に想像できます。

教員の情報リテラシーを高めるための研修時間、タブレット使用における十分な制限、保護者に負担増にならぬような見守り体制等、言葉だけでなく実感できる土台づくりをしっかりしなければ、子どもたちへのさらなる被害につながることを警鐘として発信します。

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